夕木春央『方舟』感想。翔太郎のこと、ずっと忘れられない。 

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「とにかく凄いから、前情報ゼロで読んでほしい」
ミステリー界隈でそう囁かれ続け、各書店のランキングを総なめにした夕木春央氏の『方舟』。

単純に「あらすじが面白そうだな」という軽い気持ちで手にとった私は、ラストのラスト、本当に最後の数ページで「……え、嘘だァ……」と絶句しました。色々とオチは想像していたのですが、どれも外れ、思わぬ展開に…。

一度読んだら、絶対に記憶に残り続けると確信した本作の魅力と、読後に襲ってくるなんとも言えない感情を、ネタバレ一切なしでここに綴ります。


タイムリミットは1週間。極限状態の「生贄」に誰を選ぶべきか 

まず、設定の段階から。

大学時代のサークル仲間を中心に、地下の不気味な建築物「方舟」を訪れた主人公たち。しかし、突然の地震によって出入り口が巨大な岩で塞がれ、彼らは地下に閉じ込められてしまいます。さらに追い打ちをかけるように、地下水が浸水し始め、約1週間で部屋全体が水没するというタイムリミットが告げられるのです。

脱出する方法はただ一つ。誰か1人が内部から「岩を落とす装置」を動かし、居残る(=死ぬ)こと。

「誰が残るべきか?」という冷酷な議論が始まる中、閉ざされた空間で恐るべき殺人事件が発生します。 メンバーたちの心理は、瞬く間に一つの恐ろしい結論へと傾いていきます。

「犯人を暴き、その犯人を『生贄』としてここに残せば、誰も罪悪感を持たずに全員が助かるのではないか?」

水没までのカウントダウンが迫る中、犯人と生存を賭けた、あまりにも残酷な犯人探し(推理戦)が幕を開けます。

物語を引っ張る、魅力的な「親戚の兄貴分」という存在

本作で私が個人的に気に入った点は、主人公の親戚の兄貴分である「翔太郎」というキャラクターの存在です。

彼はメンバーの中で圧倒的な聡明さと行動力を持っていて、刻一刻と迫る水没の恐怖にパニックになる周囲をよそに、冷静沈着に事件の謎を追い、必死に頭を働かせて推理をリードしてくれます。彼がいなければ、とうの昔に全員が共倒れしていたはずの、まさに「頼れる名探偵」ポジションです。

たまたま一緒に連れてこられただけなのに、自分の知恵をフル回転させて、みんなを救うために必死に戦ってくれる彼の奮闘に、「頑張れ……!」と知らず知らずのうちに応援していました。
ただ巻き込まれただけなのに、こんなに必死で動いてくれるの、ちょっと可哀想だな……と思いながらも、気づいたらずっと応援していました。

だからこそ、すべての謎が解き明かされ、最後の最後に結末を迎えたとき、この翔太郎という存在を含めた「登場人物たちの配置」の見事さに、ただただポカンとするしかありませんでした。

ただ主人公が謎を解いて、綺麗に勝ち残って終わり……というよくある展開では決してなく。
要所要所に張り巡らされた伏線が、最後の数ページで綺麗にハマり、世界が反転するあのどんでん返し。あの結末を知った上で、もう一度最初から読み返したくなる構造の美しさは、本当に良質な体験となりました。
あ~もう一度初見で味わいたい。


結び:前情報ゼロの「方舟」へ、今すぐ乗り込んでほしい

これ以上は、語れません。是非読んで見てください。
コミカライズもされているらしいので、そのうち読んでみようと思っています。

日々の細かいタスクや現実のモヤモヤなんて、この「方舟」のラストの衝撃の前には一瞬で消し飛ぶ…とまでは言い切りませんが、かすみます。

未読の方が、うらやましい!

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