有川ひろ『阪急電車』感想。出社が憂鬱だった私が、「まあ悪くないか」と思えた話。

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在宅、最高。そんな快適な生活を送っていた日常の中で突如告げられた「在宅、終了。」

5年も続いた在宅期間、すっかり家にこもる生活に慣れて、たまに出たと思えばスーパーの買い物。
時には健康を意識して散歩をしたりしましたが、それも家の近くをぐるりと回る程度。
世界が狭まっている自覚はあったけど、この快適な生活を捨てるのは怖い、というかいやだ!
と思いながら鬱々と暮らしていたら突然「〇〇ごろから、出社になります」と残酷な告知…

え、今更…無理、どうしよう、辞めようか?いやでも…
そんな考えが浮かんでは消え、あらゆる未来を想像したものですが
なんだかんだと最終的には受け入れました。

この本はそんなときに出会い、私をそっと前に向かせてくれた1冊です。
有川ひろの『阪急電車』。


北摂住まいの日常と、地続きにある「何気ない奇跡」

本作は、片道わずか15分のローカル線「阪急今津線」の乗客たちを主役にした、連作短編集です。

私自身、北摂住まいということもあって、阪急電車には馴染みがあります。
あの落ち着いたえんじ色の車体や、お馴染みの駅名が登場するだけで、物語の世界にすんなりと入り込むことができました。

描かれているのは、フィクションではあるけれど、決して派手ではない、地に足のついた人間らしさです。本当に、明日電車に乗ったら出会えるんじゃないか?と思うくらいの。

いじわるな人にスカッと言い返してくれる見ず知らずのおばあちゃん、傷ついた心を優しく包んでくれる偶然の出会い。 それぞれの人生を生きている乗客たちが、電車の座席という狭い空間で、ほんの一瞬だけ交差し、様々な連鎖を起こし、それぞれの人生が変化していくんですよね。

「リモート終了」の告知。憂鬱だった外の世界へ

実は、この本を読んだ当時の私は、会社から「いずれフルリモートは禁止になります」と告知されてしばらくあとのタイミングでした。

それまでは在宅で、自分の安全な家の中で完結していた快適な生活。そこから引き剥がされ、数ヶ月後には毎日外に出て電車に乗らなければいけないという辛すぎる告知を、当時の私はもの凄くネガティブに受け止めていて、「本当に…嫌だな……」と後ろ向きで憂鬱な気持ちでいっぱいだったものです。それはそれはもう、本当に。

けれど、本書を読み終えたとき、不思議と「まあ、外に出るのも悪くないか」という小さな前向きさを手に入れている自分がいました。

このお話は「目の前の現実に一歩踏み込めば、こんなに優しい出会いや人の温かさを目にすることができるんだ」と思わせてくれるんですよね。
もしかしたら、外に出ると何か面白いことがあるのかも?
もしかしたら、家の中にずっといるって、すごくもったいないことをしているのかも?
そんな気持ちにさせてくれました。

作中で描かれる偶然の出会いやドラマは、「家に閉じこもっていたら、絶対に味わえない出来事」です。

よく「移動が人生を動かす」なんて大げさな言葉を耳にしますが、そんな大したものではなくても、ちょっと外に一歩踏み出してみるだけで、身近なところにもたくさんの小さなドラマや、人の温もりを発見するチャンスがある。

現在はもうフル出社に切り替わっていますが、行き交う毎日の電車通勤も、ただの「しんどい移動時間」ではなく、「私もこの、人間捨てたもんじゃない温かい世界の登場人物の一人なんだな」と思わせてくれる、かもしれない。
といっても、基本満員電車なので実際はそんな余裕もなく、ストレスを感じることの方が多いのですが笑
それでも阪急電車に乗るたびに、この物語の優しい空気感をふっと思い出します。


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